避妊・去勢<オス編>Spay・Castration<Male>
なぜ、避妊・去勢手術は必要なのでしょうか?
近年、不用犬猫として保健所に収容される頭数は減少しつつありますが、それでもなお、年間40万頭もの犬猫が殺処分されています。
これは、飼育出来る人口と動物数のアンバランスや無責任な繁殖による影響が強いのではないかといわれています。
したがって、不幸な結果を犬猫にもたらせないためには、犬猫の出生率を人間がコントロールして減少させる以外にはないといえます。
現在のペットブームの潮流の中でも、日本には総人口に対し、飼育対象となる犬猫は十分すぎるほど存在するのです。
ご家族の皆様の中には、「この子の赤ちゃんがみたい」とか「女の子なのだから、一度くらいは産ませてあげたい」という願いもあるかと思いますが、計画性のない出産については、私は反対です。
小型犬や頭の大きな短頭種犬は決して安産ではなく、通常分娩が不可能なケースや緊急帝王切開の必要性が非常に高いなど、お産に関するトラブルも非常に多くなっています。
愛する動物たちにお産をお考えの場合は、しっかり勉強することが大切です。
オスの去勢手術
・望まない繁殖を防ぐことが出来る。
・前立腺肥大、会陰ヘルニア、精巣などの病気予防になる。
・攻撃性が低下し、穏やかになる。
・マーキング、スプレー行動を抑えられる。
メスの避妊手術
・望まない妊娠を防ぐことが出来る。
・乳腺の腫瘍、子宮蓄膿症、卵巣腫瘍などの病気予防になる。
・発情時の出血、ストレス(鳴き声)がなくなる。
・偽妊娠などの行動を抑えられる。
去勢<オス編>
予防獣医学的な効果も期待されます
去勢手術、すなわち精巣摘出術を行う第一の目標は、オスの繁殖の制御ですが、次いで、攻撃性やスプレー行動および性行動などの問題行動の治療目的で、手術を行うことが多くあります。
私が最も重要視しているのは、予防獣医学の観点から、精巣から分泌されるアンドロジェン(雄性ホルモン)が、様々な病気の発生に関与していることです。
前立腺肥大症、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニアなどは、アンドロジェンが原因となる病気として、日々の診療の中で非常に多く遭遇します。
いずれも治療目的で、まず第一に去勢手術の適応となります。
胎仔の時期にお腹の中で発生した精巣は、生後20~30日程度で精巣下降がおこり、陰嚢内におりてきます。
しかし、遺伝的にお腹の中や鼠径部に止まってしまい、下降が起こらない場合、これを潜在精巣(陰睾)といい、将来的な腫瘍形成の可能性が強いため、なるべく早期に去勢手術を実施します。
10才 未去勢 ポメラニアン
前立腺肥大を起こし、排便障害から右側の会陰ヘルニア併発。
会陰ヘルニア
麻酔後に直腸診によりヘルニアの状態をチェックしているところ。ポッコリとふくらんでいます。
会陰ヘルニア整復術 術中写真
肛門の右側に直腸が脱腸を起こし、骨盤腔内の脂肪が飛び出していました。去勢も同時に行います。
いつ手術をおこなうべきか<オス編>
犬で6~12ヵ月齢、猫では9ヵ月齢とされています。
オス犬やオス猫の性成熟は、品種や個体により差はありますが、犬で6~12ヵ月齢、猫では9ヵ月齢とされています。
したがって、これより早期に去勢手術することが望ましいと考えられています。
以前は、早期の去勢手術は、発育不良、尿失禁、排尿障害などを起こすとされていました。
しかし、現在では、たとえば3ヵ月齢以前で手術を実施したとしても、影響はないと報告されています。
行動治療と肥満<オス編>
まずは、避妊・去勢手術の必要性を考えましょう。
去勢手術後は、テリトリー意識や運動量が低下し、必要カロリーが15~25%減少するため、肥満の傾向が出ることが報告されています。
また、去勢手術後の問題行動の影響を期待されるご家族も多いかと思います。
以下に統計上の数値を記載しますが、諸説ありますので、あくまでご参考程度にしてください。
【去勢により改善が期待される問題行動とその確率】
・尿マーキング:イヌで60%、ネコで90%(ネコのスプレー行動で10%は効果なし)
・放浪行動:イヌで90%
・マウンティング:イヌで80%
・イヌの攻撃行動は75%・ネコ同士の攻撃行動は不明